~概要~

ロキがワルキューレと出会ったときのお話
数十年前のモロクが舞台となっている

ロキロキ:数十年後ギロチンクロスとなる
ワルキューレワルキューレ:いろいろ謎な本物の神様

『憎い』

初めて芽生えた感情はきっと『ソレ』だったんだと思う

何に対して思ったのかは未だに解らない、それでも私はそう思った…



~砂漠の都市モロク(23年前)~

乾いた風が吹き荒れ、水分を失った砂が空を舞う

昼間は焼けるような暑さに蝕まれ、夜は凍てつく寒さを纏わせる

砂漠の都市モロクは厳しい環境の中に唯一ある巨大都市である

大都市とは名ばかりで、未だ居住区では貧富の差が目立っていた



「ねぇ、ロキ 今日は街の給料日だよ!」

前歯が抜けた顔でニッと笑いながら喋るはヘルビンディという少女

「あぁそうだね」

ロキと呼ばれたくせ毛の少女は幼いながらも落ち着きを持っている

「今夜はきっと皆忙しいから雇ってもらえるよ!」

痩せこけた少女二人は大通りから外れた裏路地で話し合っていた

正確な年齢も名前も本当にあってるかわからない

生まれ落ちて、自我を確立した時にはまともな情報は一切持っていなかった

持っていなかったのは情報だけではない、親も金も食事も住む場所も無かった

「最近町外れに新しいカフェがオープンしたらしいけど…」

雇い口になりそうな話なのにヘルビンディの顔色が良くない

「なんか全然モロクの雰囲気にあってないし、あんな場所にお店出してもなぁ~」

どうやらモロクの街をよく知らない人間が気まぐれでカフェを開店させたらしい

「へぇ、モロクは酒場ばかりだからね カフェ自体が珍しいね」

特徴的な目にネコのように笑っている口はいつも変化が少ない

「ね~モロクでカフェなんてやってもお金にならないよ!」

自分の店でも無いのにプンプンと唇を尖らせ機嫌を損ねていた

そんな話をしていると思い出したかのようにヘルビンディが口を開く

「あっ!そんな事より酒場で雇って貰いに行こうよ!」

今日はモロクで働く人間が国から給料を配布される日のため

夜は酒場が大盛り上がりになるのである

そのため酒場での人手が必要になり、雇ってもらえる事があるようだ

しかし、身分の証明ができない子供を雇ってもらえる事はまずない

それでも今日食べるためには雇い口を探す必要があった

グゥ~~…

「あっ…おなか空いたなぁ…」

既に背中とくっつきそうなお腹を抑える

「私も雇い口があるか探してみるよ」

「うん!それじゃあいつもの場所で」

元気に手を振りながら大通りの方へヘルビンディが走って行く

陽気に振る舞う彼女だが、目の下の肉が痩せ劣り、唇も乾き切っていた

落ち着きを保ってはいるがロキはロキで限界が近いのである

栄養失調の限界から意識を保つのも限界が来ていた

「さて…私も探さないとね…」

どこかの家で使われていたカーペットの布切を綺麗に体に巻き直す

少しでも綺麗に見せないと話すら聞いて貰えないからである

………

……


「お前親は居ないのか?ウチはどこのガキかもわからんのは雇わねぇよ」

「お前みたいな汚いガキがいたら客が店に入れねぇだろっ出て行きなっ!」

「最近は王宮からの視察も厳しくてな、子供は雇えないんだ悪いな…」

このようなセリフを聞いたのは何度目だろうか

モロク全ての店に回ってみたがまともに話を聞いて貰えたのすら半分であった

その半分で良い返事を聞けたのは一度もなかった

「これは本当にもうダメかもしれないね…」

実は先程から地面の感覚が曖昧になり始めていた

栄養失調から来る末期症状が全身に広がっていた

もう既に倒れこみそのまま意識を捨てたいとすら思い始めた時…

「出て行けッ!お前みたいなガキが死のうが俺には関係ねぇっ!」

破裂音と罵声が同時に聞こえ、店のドアから何かが捨てられた

「ぅ…ぅぅ……」

「きたねぇガキだ!今夜は盛り上がるっていうのに台無しになるところじゃねぇか!」

ドアから捨てられたソレを踏みつけている太った男性は金の装飾をまとった金持ちだった

「ぅぅ………ぅぅぅ…」

今にも消えてしまいそうな声がロキの耳に届いた瞬間我に返った

「ヘル!」

急いで近寄ると太った男性が状況を察した

「なんだ、お前らスラムのガキか、どうりできたねぇと思ったんだよ」

そう言い放ち、ツバを吐きかける

「ほれっ、さっさとどっかにそのガキ連れて行けっ!店前に落ちてたら邪魔だろうがっ!」

「ぅぅ…ぅ…」

急いでロキがヘルビンディを背中に抱えるが、足が伸びないのである

風が吹けば飛んでしまいそうなヘルビンディの体すら支える力が残っていないのだ

「ぁーうるせぇガキだな!ほら、これでも喰ってろ」

ビシャっと投げつけたのはその男が食べていたバナナの皮である

地面に落とされ砂に塗れたがそれでもいつも食べていた物よりは立派であった

ヘルビンディは消え入りそうな声を上げるがソレを拾い食べようとしていた

『助けて…誰でもいい…誰でもいいんだよ…』

嗚咽を漏らしながらバナナの皮に手を伸ばす友人を見つめながらロキは願う

『やめろ…ヘル…ダメだよ…』

……


「あら、ゴミ捨てちゃダメよ~」

砂に落ちたバナナの皮を拾い男に渡したのはモロクでは珍しい姿をしていた

太陽の光全てを反射する白い肌に、黄金を想像させる細く長い髪

そして全てを透かして見抜くサファイヤの瞳

「私、向こうにお店だしたのよ~、挨拶だけはしとけって言われたから来たのよ~」

騒ぎの中心に突如現れ、何事もなかったように自分の言いたいことだけを言う

「………」

バナナの皮を受け取ったが、あまりにも素っ頓狂な出来事に男も言葉を失う

「挨拶に来たって言ったのよ」

その少女の瞳を男が直視すると体中の全細胞が意識を取り戻す

「あっ…あぁ!よろしくたのむ」

返事をした事で満足したのか、少女は踵を返した

その様子を見上げていたロキとヘルビンディは今のうちと逃げようとするが

やはり力が入らず倒れこんでいる

「あら~そんな所にいたら邪魔よ~?」

そう言いながら左手をロキの顔かざすと、セピアグリーンの光が一瞬体を包む

その瞬間体中の血液が再度動きを初め力が戻っていく

「……!?」

ヒーリング魔法、国によっては至極一般的な光景であったが

ロキ達は初めて見る魔法を全く理解できないでいた

「そんな所にいたら邪魔よ~?」

もう一度そう言うと、先ほどの男が後ろから話しかける

「あぁそいつらスラムのガキなんだ、関わらないほうがいいぜ」

そう言うと、しゃがみ込んだ少女は首だけを男に向け無言で見つめる

「ふぅ~ん…」

グリンと首をまた元の位置に戻すと、ロキとヘルビンディを見つめる

「………」

口をパクパクとさせ、言葉にならない言葉を探している

「あっ、じゃあこれ持って帰ってもいいの?」

突如二人を指さして言い放つ

「持って帰るって…どうするんだい?」

「まだお店の荷物が全然片付いてないのよ~、誰も手伝ってくれないし~」

不満そうな顔をし、その場でくるくるとつま先だけで回る

「まぁ誰に許可取る必要も無いわよね、こんな子供どうなっても関係ないでしょ?」

くるくると回っていたがピタリと止まり男の顔を覗き込み直視する

サファイヤの瞳を直視すると、また全身が警鐘を鳴らすような気持ちになる

「あ…あぁ好きにすればいいと思うぜ…」

「ふぅ~ん、じゃ持ってこ~」

そう言うと、右手をロキにかざしセピアオレンジの光が脚部を包んだ

足に地面の感覚がダイレクトに伝わり、更に足の重力を消し去った

「その子も連れて来なさい」

そう言うと、一人軽い足取りでその場から歩き始める

ロキはヘルビンディを力の戻った全身と力を得た足で背負いその背中を追う

時折ぴょんぴょんと歩いたりと、ふわりふわりと歩くその姿は神々しさを感じる

神という存在を知らないロキには理解ができなかったが感覚だけで理解はできた

「ぁ、あの…」

歩みを止めない背中に話しかける

「ん~?」

背中はそう喋った

「ありがとう…」

「ん~?」

背中はそう喋っていた

おわれ